『スノーピーク「楽しいまま!」成長を続ける経営』を読む

スノーピーク。キャンパーならば誰もがしっているブランド。こだわりがあって、ちょっと高いけれど洗練されたおしゃれなアウトドア用品を生み出しているメーカーという印象だ。そのスノーピーク社の社長・山井太(やまい・とおる)さんの本『スノーピーク「楽しいまま!」成長を続ける経営』(日経BP社)という本を読む。

▶︎山井太さん 1959年新潟県三条市生まれ。明治大学を卒業後、外資系商社勤務を経て1986年、父が創業したヤマコウに入社。アウトドア用品の開発に着手しオートキャンプのブランドを築く。1996年の社長就任と同時に社名をスノーピークに変更。熱狂的なアウトドア愛好家としても知られている。

スノーピークは2014年、東証マザーズに上場。一年後の2015年には東証1部に市場を変更した。2018年の売上高は約120億円、営業利益は約9億円の規模。

・スノーピークがアウトドア企業としてターゲットにしてきたのはキャンパーだけだった。キャンパーは日本の人口の約6%ほどであり、最近では7%に増えている。これをさらに伸ばすため、スノーピークではキャンパーの比率を20%までに高めることを目標に掲げている。

・キャンパー向けのビジネスは当然、重要な取り組みなのだが、私はそれだけでは足りないと思った。何故かと言えば、目標通りキャンパーが20%まで増えても、非キャンパーが80%を占めるからだ。つまり80%を占める非キャンパーにとって、スノーピークは無関係のままだ。ではどうすべきか。非キャンパーに向けた事業展開に踏み出すべきではないかと考えた。そしてたどりついたのが「人間性の回復」と言う言葉だ。

・アーバンアウトドア事業には多様な試みがある。このところ伸びているのが、オフィスとアウトドアを組み合わせる「キャンピングオフィス」事業だ。いつもの会議と違うところは、アイディア出しのブレインストーミングなどのようにクリエイティブなテーマに特に向いている。

・さらに、アーバンアウトドア事業は住宅にも及んでいる。スノーピークは一戸建てのハウスメーカーや工務店、マンション会社とコラボレーションしながらアウトドアを日常生活に取り入れるプロジェクトを進めている。

・社外とのコラボレーションでユニークなのがサントリーさんとの取り組みだ。サントリーはグループ売上高が2兆円台なのに対し、スノーピークは100億円台。規模は大きく違い業種も違う。それでも自然への姿勢は似ていると思ったことがコラボレーションにつながった。サントリーは「水と生きる」と言うコーポレートメッセージを持ち、スノーピークは「人間性の回復」と言うミッション掲げている。このことが、サントリー「天然水スパークリング」のコラボレーションにつながった。

・ アウトドアを楽しむ人は、製品の根底にある思想などを深く考える方が多いのだと思う。自分たちが自然の中で使うための道具をある程度理解していないと喜びを見出しにくいのかもしれない。だからこそ、アウトドア好きのユーザ同士は製品やサービスを通じてコミュニティーができやすい。これは他の分野だとなかなか成立しないことであり、アウトドアの特徴と言えるかもしれない。

・キャンプが持っている力。私はキャンプを楽しむ人の方が、そうでない人に比べると幸せだと思っている。だからキャンプの向こう側にいる人、一人ひとりをキャンプに誘いキャンパーになってもらいたい。これは、スノーピークのミッションの1つだ。キャンパー人口が20%になったら、今よりも相当良い社会になると本気で思っている。

・事実、1990年代のオートキャンプブームのときには、キャンパーの比率は14〜15%ほどまで増えていた。スノーピークにはヘビーユーザーだけが来ればいいと言うわけではないことが分かってもらえるはずだ。全体を底上げし、ユーザを増やしていく活動はそれだけ大切で、そのためにチラシを配布をすることもやっている。

・ スノーピークが取り組んでいるのは、アウトドアを通じた「人間性の回復」、「家族の幸せ」、「友人との親密な時間」といった他の何かには代えられないことだ。そこには、おいしい料理、お酒、そして焚き火がある。取り組んでいるのは、人間としての根源的な関わりを深める行為であり、そんな中で大切な人との絆が深まることは、ユーザにとって人生の価値そのものだと思う。