取材中の登山道で大転倒をしたが事なきを得た、雨竜沼湿原での失敗

「あっ」と思った時はすでに頭から下へ1回転して転落。やってしまったという後悔と、カメラは無事か、メガネは大丈夫かというとっさの確認。すると、ズボンやシャツには流血がポタポタと落ち赤く染め、動揺してあせった。「うわっ、どうやって転んで、どこから血が出ているんだろう」。気が動転しているさなか、幸い後ろから下山してきた中年男性が助けてくれた。ティッシュを貸してもらい、頭部のてっぺんあたりの出血している場所をおしえてくれ、顔に流れた血を拭いてくれた。
いったいどうしたことだろう。何が起こったのか。おおまかな流れで言うと、北海道遺産にも選定される雨竜沼湿原へ行き取材・撮影した帰り道。勾配がきつい通称「険竜坂」の真ん中ほどにあるジグザグ道の岩場で転んだのだ。
そもそもは朝9時半、雨竜沼湿原に向かおうと思った。スタートのゲートパークから湿原テラスまでは1.5時間〜2時間・約3.5キロとなっている。「楽勝だな」と思ったのが間違いだった。
この道がほとんど本格的な登山と同様な厳しい道で、吊り橋あり、小沢渡りあり、岩場ありの登山道だった。登りきったあとは標高850メートルほどにある湿原を1周。4キロほどを撮影しながら歩いた。12時ごろ。湿原テラスで持参したおにぎり2個と水を補給して休憩。天気もさほど良くなかったこともあり、迷わず下山することにした。
下りはじめると、なんだか足の前スネがひくひくしてきた。両足がつりそうな気配になった。わたしはこの部分が非常に弱く、マラソン大会でもしばしばウィークポイントになる部分だ。スネがつりそうになるとどうなるか。下りの足を置いたその瞬間、前後左右にゆすられる足元に力が入らず、とても不安定になる。不安定になる上に、背中には荷物や水を入れたリュックがゆれ、首と手には重い一眼レフカメラを下げている。「転ばないように下ろう。転んだら大変だからな」と自分に言い聞かせながら歩いていた。後ろから熊よけの鈴の音がだんだん近づいてくる気配があった。後続の下山者が迫っていることに、少し速度を早めなきゃ、というプレッシャーがあった。そんな矢先のできごとが、冒頭の転落だった。

なにしろ一瞬のできごとで、何につまずき、どんな風にひっくり反えったのかまったく記憶にないほどであった。たぶん、おそらくで想像するに、柔道でいうところの背負い投げをされたように、頭から下にひっくりかえって土と石の斜面を回転しながら落ちたのではないか。メガネをかけた顔とカメラをとっさに守ったような感覚が、後から思えば、あった。背負っていたリュックが土まみれになっていたことから、このリュックサックがクッション役になって自分を守ってくれた可能性がある。頭部1カ所の流血のほかは、ぶつけたところを含めて、幸いにも被害はほとんどなかった(後からカメラのファインダーフードがないことに気づいた)。
それにしても、あの急角度の岩場のコーナー。頭から下にダイブしたにもかかわらず、大きなケガにつながらずに、本当に良かった。打ち所が悪ければ、顔面や頭を岩にぶつけ、足や腰を石にぶつけていたと思うと、ぞっとする。メガネが壊れ、カメラがふっとび行方すらわからなくなったら仕事どころではない。下山後、クルマで帰宅することもままならなかったことだろう。あの場所では携帯電話も通じない(管理棟のあるゲートパークのところでは一部、かすかに通じるところはある)。後続の善良なる登山者がいなければ、完全にアウトだったかもしれない。
下山後。息を整え休憩。ハンドルを握り運転した。途中、公園のトイレで血のついた手を念入りに洗い、つりそうな足をこらえながらなんとか帰宅した。予定していた取材先はすべてキャンセルせざる得なかった。夜、念の為にという家人のすすめもあり、救急外科病院に行った。頭のCTスキャンを受けて傷口を診てもらった。結果は問題なしだった。6,310円がかかった。異常がないという医師のことばを聞きホッとした。

今回の転落はどうして発生したのか。反省も含めてふり返りたい。
まず、第一の要因は体力不足だろう。ことに脚力がかなり落ちていることを痛感した。わたしは登山歴は20年以上あり、ランニングを含めたマラソンランナーでもあるが、ここ3〜4年は活動量が減っていた。コロナ下によって走る距離や歩くことさえ少なくなっていた。足のスネのけいれんが、その警告を発していた。
第二に、新しいメガネのよる足元へのゆがみに慣れていなかったことがあるかもしれない。10年来愛用してきた自分のメガネが先日、ぽっきりと中央で折れてしまった。そこで、新調すべく老眼も進んでいたので、遠近両用タイプ(正確には遠中両用タイプ)にしたのだ。店員さんにも注意喚起されたが、「足元がすこしゆがんで見えるので、階段などは注意してくださいね」と。日常生活では慣れたつもりだったが、状況変化が著しい山では、ちょっと見えかたに気持ち悪さを感じていた。そのあたりの微妙な遠近感の認識不足が足の置き場に影響していたのかもしれない。
第三には、シューズだ。わたしはこれまでも、ランニングシューズで山に登っていた。ソールを含めて全体がやわらかいことから、下りの不安定さを感じていたものの、平地での歩きやすさを優先して履いていた。しかし、今回は上記の2点とあいまって、すべてがぜい弱な状況に陥ってしまったことがあるように思う。
まあ、しかし、それでも、頭のかすり傷少々で事なきを得た今回の転倒。一歩まちがえば重大なことになっていた、不幸中の幸いだった。大いに反省し、脚力維持の方策を含めて今後に活かしたい。最後にこの場を借りて、助けていただいた後続の登山者にお礼を伝えたい。
(追記)これを書いている翌日。左側のくび元や、左側の腰がひどく痛い。しかし、出血も止まり身体は大丈夫だ。カメラデータにも異常なし。動作も問題なし。パソコンはそもそも背負っていなかったので、よかった。
これからは、山に登る時には、軍手・帽子・ストック必携。カメラは上りはともかく、下りはリュックにしまうようにしよう。