敬老の日の話題〜笹本恒子さんを伝える卓上四季

敬老の日。新聞のコラム「卓上四季」が女性報道写真家の草分けであった笹本恒子さんのことを取り上げていた。
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女性報道写真家の草分けとして知られた笹本恒子さんが脚光を浴びたのは2010(平成22)年、96歳の時のこと。写真家小西康夫さんの個展会場で初めて年齢を明かしたところ周囲が絶句。友人らの発案で開いた展覧会が評判を呼び、ベストドレッサー賞まで受賞するなど一躍、時の人となった。
人生の大半は順調だったとは言い難い。1940(昭和15)年に写真協会に就職するも、父と兄の猛反対で退職。戦後再びカメラを手にしたが雑誌廃刊で仕事が減り、オーダー服の裁縫やフラワーデザインの講師で生計を立てた時期もある。それでも不遇を嘆くことなく道を極めたのは、有名無名を問わず「一隅を照らす人」を撮るという信念があったからだろう。それは通っていた日曜学校の突然の閉鎖や監視の目の中で感じた戦中の疑問と無縁ではない。
加藤シヅエら98人の女性を撮影した代表作「明治生まれの女性たち」には、男尊女卑の時代を凛として生き抜いたエネルギーが漂う。そこには「好きなことをやりなさい」と背中を押してくれた母親への賛辞もあった。
先月107歳で亡くなった笹本さん。「年だからって自分を制限しないのが幸せの秘訣」と著書に記していた。写真家として完全復帰を果たしたのは71歳だった。無鉄砲を自認した笹本さん。時には年がいも少し忘れたくなる敬老の日である。
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「一隅を照らす人を撮る」という信念。わたしもまた、メディア業界のはしくれに生きるものとして、このことは忘れまい。