『栗山ノート』(光文社)は必読の一冊

WBCであの感動をもたらしてくれた「侍ジャパン」。その監督をつとめた栗山英樹さんの著書『栗山ノート』(光文社 2019年)がものすごく良かった。


栗山監督は小学生の野球少年だったころから「野球ノート」なるものをつけているという。その日の練習メニューを書き出してみたり、気になったプレーを図解したり。2012年に北海道日本ハムファイターズの監督に就任しても、その習慣はつづけていた。日記をつけるような感覚で、自分自身が気づいたことや、選手やスタッフに気づかされたことなどを書く。栗山監督のノートには『四書五経』などの古典や稲盛和夫さんなどの経営者の著作から抜き出したことばで埋め尽くされているという。本人いわく「もはや野球ノートというよりも、人生ノートと言ったほうがいいかもしれない」と。


<一日は一生の縮図なり> 国民教育の師父とうたわれた森信三先生のことば。このことばから野球や試合を通じた人間としてのありようについて、栗山監督は率直なことばで人生を語ってくれる。


<成功は常に苦心の日に在り、敗時は多く得意の時に因ることを覚る> 大正から昭和にかけて活躍した思想家の安岡正篤さんのこのことばを、栗山監督は自身のスマートフォンの待ち受け画面にしていた。「好事魔多し」ということば。二宮尊徳の「心田を耕す」という教え。きれいに整備されたグラウンドを見て、勝負師としてなにをなすべきかを反省していた。


<ど真剣に生きる> 名経営者であった稲盛和夫さんの本は、苦しい時にいつも読んでいたもの。「真剣ではなく『ど』がつくほど真剣に、今日は勝てると思っていたのか」と、野球の神様が聞いてきたという。

あとがきにこんなことを記している。「何歳になっても、人は変われる」。小さな違いがやがて大きな違いになると信じて、薄い紙を1枚ずつ積み上げていくように、自分ができることを増やしていこうとしてきた。学びつづけることで、視野が広がり、柔軟な発想が生まれる。栗山監督は「試合に勝てない=うまくいかないことは、これ以上ない学びの機会です。自分の至らなさや勉強不足を客観的に突きつけられる。苦しければ苦しいほど、本当の自分がわかる。その時々で自分が何を考え、どんな行動をすればいいのかが試される。成長するチャンスをもらっていると感謝すべきた」と。

仕事にも、人生にも必ず効く門外不出の栗山監督のノート。経営者はもちろん、ビジネスパーソン必読の一冊だと思う。