「わたしはなぜ、この仕事をしているのか」

人口減少の時代を憂う

2000年代の始め、少子高齢化とともに日本の人口がピークを迎え、これからは人口減少の局面に入る、ということをよく聞いた。

北海道の地方へ訪れると、かつての駅前のにぎわいは消え、空き地や駐車場ばかりが目立つようになっていた。人が減れば経済も縮小し、稼ぎも減る。そんな現状を憂いていた時、「定住人口の減少は、交流人口を増やすことで経済的には補える」という計算上の理論を知った。いわく、まちを訪れる観光客を増やし消費してもらえばいい、と。

折しも観光市場は大きく変化し、物見遊山の団体旅行から体験観光や滞在交流型の個人旅行にシフトする真っ最中だった。インターネットの普及がその変化に拍車をかけていた。

体験プログラムに光を見る

北海道内の企業や団体の広告宣伝活動に従事してきたわたしは、2007年、「北海道体験.com」というWEBサイトで道内観光にイノベーションを起こしたいというベンチャー企業に出会った。

後に企画された「手ぶらでワカサギ釣り」という旅行商品(=体験プログラム)にマジックを見る思いがした。なにもない湖沼の氷上で、釣り道具と防寒具、やり方を教えるガイドと交通手段を組み合わせることで、冬シーズン数千万円の経済効果を生み出していった。しかも、地上のマスメディア広告は一切使わず、WEBのみでプロモーションしていた。時代が変わったことを痛感した。

参加者は笑顔で満足し、ガイドには冬季間の雇用が生まれ、地元の飲食店や温浴施設は新しいお客でにぎわった。体験プログラムという新しい旅行商品に光を見た。以来、これを国内外に広めることが人口減少に苦しむ地方をにぎやかにさせる。自分の役割りだと思いを定めた。

いつも持ち歩くもの

いまも自分のバックパックのなかに常に持ち歩いているものがある。2013年3月28日の新聞紙面だ。そこには驚くべき数字が報道されている。「道内高齢化率4割超 2040年推計 人口24%減 419万人」。

560万人と記憶していた北海道の人口は、わずか30年後には3/4の規模に縮小するという。すでに起こった未来を見た思いがした。日々の変化は小さい。あわただしい日常にまぎれがちになる。自戒の意味を込めて、この現実を忘れないように携帯している。

現状に一矢を報いたい

わたしは高度経済成長期に幼少期をすごし、バブル経済のピーク時に社会人となった。右肩上がりの時代。明日は今日よりもっとよくなる。そう信じていた。

しかし、わたしたちの子ども世代が生きる時代は、真逆のものになっていくおそれがある。そうであってはいけない。いや、現実にはそうなるかもしれない。

だがしかし、いまを生きるものとして、できることはやっておきたい。自分のささやかな活動は、それは遠くない将来から見れば、むなしい所作にうつるかもしれない。それでもわたしは現状に一矢を報いたいと思う。

同志とともに。